夜の静寂の中で聴くピアノが奏でる旋律
私がまだギター小僧だった頃*1)、海外のハードロックバンドのあの深く歪んだディストーションサウンドなるものを大音量で全身で浴びるように聴くために、ギターショップに併設されているスタジオを友人たちとワリカンして借りては、なんとかあの有名ギタリストたちのサウンドを再現しようとエフェクターをいじったりアンプをいじったりしながら試行錯誤していたが、スタジオを管理しているおじさんに「再現したいのはCDで聴いた音かい?あんなのは最後の仕上げに色々いじってるから生音で再現しようなんて無理。ライブで聴いた音ならまだいけるかもだけど、ライブで聴いたことあるのかい?」と当時すでに解散してしまったバンドなのに来日するわけないこと知ってる上で言われていることはわかったので、そこそこイラついた記憶がある*2)。
そこから現在に到るまでに色々音楽に対する考え方も変化し、そして今は専らJazzを聴くようになった。アンビエントやミニマルサウンドなども聴くし、オーケストラも聴く。けれど、ヘッドホンの性能の向上が著しい昨今において、その性能の向上を一番如実に感じられるのがJazzであり、そして今も進化をし続けているジャンルであると思っている。なので今はもうスタンダードジャズは聴かない。比較的新しく若いJazzピアニストたちの現在進行形の曲を探しては聴いている。音楽自体は非常に広い世界なのだが、今回は私が今オススメするJazz(の一部)を紹介したいと思う。
E.S.T
Esbjörn Svensson Trio(エスビョルン・スヴェンソン・トリオ)という、スウェーデンの伝説のJAZZトリオ。
1995年と1996年に「スウェーデン・ジャズミュージシャン・オブ・ザ・イヤー」、1998年には「スウェーデン・ソングライター・オブ・ザ・イヤー」を受賞。1997年にはスウェーデンでのグラミー賞を受賞。
しかしなんと2008年6月14日ピアニストのエスビョルン・スヴェンソンは事故により44歳で帰らぬ人に。ショックだった。もう彼の演奏を生で聴くことは叶わないことは残念であり、そして彼がJAZZ界に与えた影響も計り知れない。
超絶なるピアノとベースのシンクロ
When God Created The Coffeebreak▼
今も聴くと泣きそうになる
From Gagarin’s Point Of View▼
JAZZに慣れない人でも比較的聴きやすいかなと
Seven Days Of Falling/Elevation of Love▼
The Bad Plus
The Bad Plus(ザ・バッド プラス)というアメリカのJAZZトリオ。
「ロックの魂を持っているジャズトリオ」
「NIRVANA以来もっとも独創的なサウンドを持つスリーピースバンド」
などと各国の音楽評論家たちから賞賛された。
それはまるでロックとジャズを融合させたような、時にはバレエのオーケストラをたった三人で再現してみたり、とにかく彼らしか聴かせることのできない唯一無二の音楽。
頭の中を搔き回すようなエグいリズムセンスに引き込まれてしまう
Physical Cities▼
誰もが知っている名曲をこんな風にできるのは彼らだけ
Every Breath You Take▼
スタンダードなジャズにはない彼らがだけが生み出せる緊迫感
And Here We Test Our Powers Of Observation▼
triosence
ドイツ出身のピアノ・トリオ・ユニット、triosence(トリオセンス)。
どこか遠くへ誘われるような透明感溢れるピアノが奏でる哀愁の美旋律。非常にロマンティックなメロディーで『ユーロ・ピアニズム第3世代』と称された。演奏技術で魅せるよりも聴きやすさを重視し、聴く人の心の中にどこか懐かしい、でも未だ見ぬ異国の情景を描くような、素晴らしいJazzトリオ。
ただただ美しい世界観に浸りきり
no one’s fault▼
映像は実際に弾いているものではありませんがこれも美しい曲
Waltz For Andrea▼
https://vimeo.com/105243851
心地よいパーカッションがまだ見ぬ異国への扉を開いてくれる
A Far-Off Place▼
JACOB KARLZON
現代スウェーデンを代表するピアニストの一人、ヤコブ・カールソン。
常に攻撃性と尖鋭性を失わず、常に自己の美学を貫く姿勢を前面に出すアクチュアルなピアニストは、アコースティックピアノ、エレクトリックピアノ、オルガン、キーボード、プログラミングなど豊富で多彩な画材を駆使して巨大な音のキャンバスに描く”音の画伯”さながら。
疾走感の中にメロディアスピアノをねじ込んだアコースティックエレクトリカサウンド
Metropolis▼
見た目からは想像できない透明度の高い旋律が沁みる
The Big Picture▼
シンセサウンドを織り交ぜながらゴシックの世界観を展開していく
Dirty▼
James Farm
実績ある4人が組んだオールスターバンド。
ジャズ・サックスのイノベーターと名高いジョシュア・レッドマン、アーロン・パークス(ピアノ)、マット・ペンマン(ベース)、エリック・ハーランド(ドラムス)という現代ジャズ・シーンを牽引する4人により結成されたグループで、それぞれの頭文字をとってJAMEsと命名している。
マット・ペンマンはこのバンドにて「自分たちの音楽的人格の一面を見せる窓でもあり、バンドのサウンドをさらにもう一歩突き詰めたものだ」と語り、またジョシュア・レッドマンも「曲はただインプロヴィジェーション(即興演奏)をやるための手段ではなく、曲にストーリーを語らせるようにする」と意気込んでいる。
彼らの音楽は、どこか引っかかりつつも聴けば聴くほどクセになる病み付き系Jazzかもしれない。
シンプルな音選びでありながらも聴くほどにハマって中毒に
Two Steps▼
独特の世界観がストーリー展開されて気がつけば引き込まれている
Chronos▼
こちらはメンバーの高い演奏技術力をいかんなく見せつけてくる
I-10▼
Tingvall Trio
ティングバルトリオ。
昨年の2017年秋、初来日公演だった彼らの演奏を最前列で聴いた(日本での公演はこれのみ)。演奏中にピアニストのティングバルが何度も客席を見るのだが、その際に私が視界に何度も入ってたらしく、途中のMCで「髭のサムライジェントルマン」といじられた。
2017年7月にリリースしたアルバムが本国ドイツのポップ・チャートで初登場29位に入り、ドイツの音楽業界史上、インストルメンタル曲がランクした最高位となった(当然、ドイツのジャズ・チャートでは1位)。
スウェーデンのピアニスト、ティングヴァルに、キューバ―のベーシスト、スイスのドラマーの国際色ある混成3人のメロディックサウンド。
jazzahead! 2014 – German Jazz Expoでの演奏▼
ELBJAZZ 2011でのライブ映像▼
重厚でありつつも揺らぎのあるストーリー展開を見せる
Cirklar▼
Neil Cowley Trio
ニール・カウリー トリオ。
ニール・カウリーはクラシック・ピアノの神童として名を馳せた後にソウル~アシッド・ジャズ・シーンに転身、ブラン・ニュー・ヘヴィーズやアデルのアルバムに参加してきた。
自らのバンドを結成したNeil Cowley Trioは2006年のデビュー以来、母国イギリスを中心に高い評価を得てきた。
クラシックやポップス、ソウルやロック、現代音楽の要素を織り交ぜた、彼らだけにしか作り得ないサウンドはアルバムを出すたびに進化を見せている。
とてもラフな格好をしているが、しかしそれでいてとてもスタイリッシュに見えるのは彼らの強いアイデンティティのなせる業なのではないか。
優しい旋律で包んでくれる
Slims▼
重厚なメロディックサウンド
Distance by Clockwork▼
弦楽器とピアノが重なり合って独特の世界観を醸し出す
Rooster Was A Witness▼
映像美にも注目
The City and the Stars▼
Romain Collin
ロマイン・コリン。08年に「東京Jazz Circuit」で来日を果たし、無名同然にもかかわらず大きな反響を巻き起こしたピアニスト。一聴するとクラシックの確かな素養を持つピアニストだが、思わず2回3回と繰り返して聴いてしまう、”クセになる”中毒性を創り出す才能をいかんなく発揮。
都市のフォルクローレとでも形容したくなるサウンドが織り込まれているがその雰囲気はあくまでもクールに貫かれており、ジャズ本来の文法を崩さずに新たな語り口を持った文体を付け足すかのような、さすが映画音楽家と言わしめる世界観が圧巻。
リズムと旋律が艶やかに流れていく
Clockwork▼
音のサスティンがどこまでも広がる幻想的な空気感を創り出す
Raw, Scorched & Untethered▼
live at the Iridium ‘15▼
感情の振れ幅を大きく深くする音楽の力
音楽を聴くとき、人々は動き、知覚、感情といった次元で簡単に協調できる。音楽には、人々の同期化を促す類い稀なる力が備わっている。感情との結びつきが強いため、私自身も自分の感情を制御したいときに音楽の力を借りる。気持ちを昂ぶらせたい時、鎮めたい時、哀しいことを忘れたい時、怒りを逸らす時、何かに耐える時、など、音楽にその多くを頼っている。音楽産業に従事する人に対する強い憧れと尊敬があるのはそのためだ。昨今の音楽業界の動向には色々ヤキモキすることもあるが、でも音楽そのものはこれからもずっと発展していきますようにと切に願っている。そしてそのために奮闘している人々を心から応援したい。