プレッシャーを感じている人に「力を抜け!」は逆効果
「力抜いていこうぜ!」
野球のシーンでは良く見られる光景である。でも選手にとって、本当に力を抜いてしまったら、全力での速いボールなど投げられるわけがない、と本能的に感じている。さらに厄介なことに、「肩の力を抜け!」と叫んでいる監督が一番、肩の力が入っていたりする。ここでいう、力を抜く、というのは「完全に脱力しろ」ということではない。「ほどほどに力を抜け」ということである。言うのは容易いが、これが本当に難しい。
私もかつて選手時代の投手としてマウンドに立っていたときには、制球が定まらなくなった場面で、きまって野手たちから「楽に!楽に!」と掛け声をかけられた。アメリカでは「Relax!Easy!」と言われた。どちらにせよ「力を抜け」という意味だ。色々調べてみても、どうやら、力を抜いた方が良いパフォーマンスが発揮できる、という認識は万国共通のようだ。
今の仕事でも、社内のメンバーに「もっと肩の力を抜くんだ」とアドバイスをしたことがあるが、確かに言うのは簡単であるが、言われた側もなんとなく分かっているつもりなだけで、実のところ両者ともに分かっていないんじゃないか、と思ったりもした。
力を完全に抜いて完全脱力してしまったら眠くなってしまうじゃないですか、と反論されたこともある。しかし、プレッシャーが高すぎる心理状態の中でなかなか集中できないからと言って、力んで「がんばって集中しなきゃ!」と念じたところで、集中などできない。「力を抜かなきゃ!」という別のプレッシャーを生んでしまうからだ。
しかしどうやらやはり『集中して全力を発揮する』=『脱力する』というのはなんとなく正しいらしい、ということは薄々皆感じているらしい。問題は、その効果を真に理解して利用している人は少ない、ということである。ましてやそのメカニズムを説明できる人はさらに少ない。だからこそ皆こめかみに血管浮かせて「力を抜けー!」と叫ぶのだ。
リラックスが集中を生み出す
集中状態に入るためには、
- リラックス(適度な脱力)
- プレッシャー(適度な緊張)
の2つが必要である。しかしどちらも過度に多かったり少なかったりすると集中状態に入れない。そして「力を抜け!」と言いたくなる大半の場面は、プレッシャーが多すぎる場面である。なので、プレッシャーを適度な水準まで減らす必要がある。そのためには力を抜いた方がいい、と考えがちであるが、力を抜こうと頑張れば頑張るほど、緊張は高まる。「緊張しないように!」と緊張してしまうのである。
ここ最近の私たちの社会は、常に緊張を強いる。常にプレッシャーを生み出している。なのでほうっておいてもプレッシャーは高まる一方であるので、いかにプレッシャーを減らしてリラックスできるか、に焦点を絞って対策をすればいい。では一体、力を抜くためにどうすればいいのか?禅問答のようであるが、「力を抜こうと考えずに力を抜く」のである。
呼吸に意識を向ける
私は毎日朝晩の2回、呼吸筋を鍛えるトレーニングをしている。なんのためか。それは呼吸をコントロールするためである。呼吸の頻度を自由に変化させられるようにするためである。大きく深い呼吸として1分間に1.5回しかしないようにすることもあれば、浅く速い呼吸として1分間に180回まで増やすこともある。では、呼吸をコントロールすることとリラックスすることはどう繋がるのか。
プレッシャーを感じて緊張しているとき、緊張している心に意識を向けずに、呼吸のみに意識を向ける。呼吸音を『聞く』のである。ゆっくりときれいに整った呼吸音になるまで、静かに息を吐く。周りがうるさくて呼吸音自体が聞こえなくても良い。呼吸音が体の内部から伝わってくる音を聞こうとするだけでいい。できるだけゆっくり、静かに綺麗に整った呼吸になるまで息を吐く。その呼吸を何回か続けると、頭の中は空っぽになり、緊張感は和らいでいるはずである。緊張感が完全に消えてしまうこともある。
なので、選手を指導する立場にある監督・コーチの方々は、ぜひ日頃の練習に「呼吸を整える」というトレーニングを取り入れてほしい。あるいはあなたがビジネスパーソンであれば、日頃から呼吸を整えるトレーニングをしておくと良い。そしていざ選手が緊張して力が入っているな、と思う場面では、「力を抜け!」ではなく「呼吸をキレイにしよう」と言ってみてほしい。緊張している後輩社員がいたら、「その呼吸、乱れてない?」と言ってあげてはどうだろうか?
肩の力、抜いてこう!
と、言いながらも私も肩の力が入りやすいクセはなかなか直らなかった。現役自体は肩の力入れっぱなし100%で投げていた。そして今の仕事でもついつい肩の力入れすぎた状態で取り組んでしまうことがある*1)。良い頃合いに力が抜けているエンジェルスの大谷くんを見ていると凄いなと思うし、羨ましい。
そして仕事でも力の入った渾身の一作を作り上げようと躍起になるよりも、肩の力を抜いて楽しげに作り上げたものの方が、良いものが出来上がったりする。往往にして、力の入れすぎは空回りに繋がる。労力に見合わない結果になりやすい。だから常に仕事では「肩の力抜いていこう」と自分に声をかけるようにしている。『全力』というものが『今の自分が生み出せる最高の成果を出す能力』のことを意味するとしたら、その『全力』を出すためには肩の力を抜く必要がある。肩に力が入っていては良いものが作れない。良いものを生み出したい。
そして、そんなことを書きながら、今日も社内メンバーに「肩の力抜いてこう」と声をかけてみる。長年の口癖とは恐ろしい。
注釈
↑1 | 昨日書いた記事も今思えば肩の力入りまくりだった。恥ずかしい限りであるが、でもまあこの記事を書くきっかけになったので、結果オーライ。うん、ポジティヴ素敵 |